可惜夜の緋桜樹


【概要】
この開拓地には幹の直径が2m、高さが8mの真っ赤な花を咲かせる桜が存在する。この桜を中心に直径20m内にはどんなものも存在しない。
また、その直径10m範囲には大きく拡がった桜の枝と花が空を覆っており、その範囲内は赤い花びらで真っ赤に染っている。これらの花は痛むことも腐ることもないが本体の幹から離れると一定の時間で消滅することが確認されている。
この桜は、夜になるとその木の根元から死人が溢れる。それは貴方に覚えがある人物だ。親しかった友人、かつて弔った家族、亡くしてしまった恋人…貴方の記憶や思い出を苗として、彼らは死体となって、夜の間だけ、その桜の木の下でいつか来る迎えを待っている。
日が明ければ、彼らは日差しによって燃やされ、朽ち果てて消えていく。
可惜夜とは、明けてしまうのが惜しいほど素晴らしい夜のことを指す。断腸の思いで死に別れた者に再び会えるのならば、彼らを焼き尽くす赤鴉(太陽)を憎む他ない。
2022/4/2